主な論文の解説


AIDはRNA exosomeと連携してHBV RNAを分解する

Guoxin Liang, Guangyan Liu, Kouichi Kitamura, Zhe Wang, Sajeda Chowdhury, Ahasan Md Monjurul, Kousho Wakae, Miki Koura, Miyuki Shimadu, Kazuo Kinoshita, and Masamichi Muramatsu
TGF-β Suppression of HBV RNA through AID-dependent Recruitment of an RNA Exosome Complex
PLoS Pathog. 2015 Apr 2;11(4):e1004780

B型肝炎ウイルス(HBV)とヒトパピローマウイルス16型(HPV16)は、我々に癌を起こす代表的なウイルスである。これまでの研究よりAPOBECタンパクの一つであるAIDはサイトカイン(TGFbやIL-1b)刺激により、ヒト肝細胞株に発現する事が報告されていた。我々は強制発現されたAIDがHBV DNAに高頻度変異を入れる事を奉公している。今回、サイトカイン刺激で発現誘導される内在性AIDに着目した研究を展開した。HBVを持つ肝細胞株にTGFbを投与するとAIDが誘導され、ウイルスのRNA量とDNA量の両方が減り、TGFbはウイルス複製を抑制する事が見いだした。次にAID発現をRNA干渉で抑制させるとTGFbによるウイルス複製抑制効果が消失し、またTGFb処理をしなくともAIDを強制的に発現させるとウイルス複製抑制が観察された事より、TGFbのウイルス複製抑制効果はAIDに依存する事がわかった。さらに詳細に解析を進めると、AIDはウイルスRNAと複合体を形成し、RNA分解複合体(RNA exosome)を呼び寄せる事によりウイルスRNAを破壊する事がわかった。AIDは、Bリンパ球では、RNA exosomeと結合する事により、抗体遺伝子座のクラススイッチ組換えを促進する事が知られていたが、どうやらヒト肝細胞内でもRNA exosomeと連携しているようである。Bリンパ球内では抗体遺伝子座からのRNA産物にRNA exosome/AID複合体が、リクルートされ組換え現象を促進しているようだが、肝細胞内では、HBVのウイルスRNAに作用しそれを壊している可能性がわかった。AIDがウイルスRNA分解を通して抗ウイルス活性を顕す可能性が初めて示唆された。

 

HPV16ウイルスゲノムのAPOBEC高頻度突然変異を次世代シークエンスでとらえた

Wakae K, Aoyama S, Wang Z, Kitamura K, Liu G, Monjurul AM, Koura M, Imayasu M, Sakamoto N, Nakamura M, Kyo S, Kondo S, Fujiwara H, Yoshizaki T, Kukimoto I, Yamaguchi K, Shigenobu S, Nishiyama T, Muramatsu M.
Detection of hypermutated human papillomavirus type 16 genome by Next-Generation Sequencing
Virology. 2015 Sep 7;485:460-466.

*私達は、これまで遺伝子改編酵素群APOBECの抗ウイルス活性を検討してきました。APOBECsはヒトでは11種類からなり、DNA上のシトシン塩基をウラシル塩基に変換する酵素活性を持つ一群の酵素です。 ヒトパピローマウイルス(HPV)とAPOBECの関わりについては、これまで核内エピゾームDNAへの高頻度変異やウイルス粒子形成/エントリーの阻害作用を報告してきました。そこで今回は、in vivoすなわち臨床検体でAPOBECの活性の顛末であるHPVウイルスゲノム高頻度変異について調べました。
まずAPOBEC3のmRNA発現レベルを健康およびHPV16陽性子宮頸部サンプルを用いてRT-qPCR法で定量したところ、ほとんどのAPOBEC3の発現が見られ、HPV16陽性サンプルの方にてAPOBEC3発現がたかい傾向がみてとれました。次にHPV16陽性サンプル(子宮頸部前癌病変CIN1)にてウイルスDNA上の高頻度変異の蓄積を3D-PCR法という高頻度変異特異的検出法で検討したところウイルスDNA上の高頻度変異現象が陽性となった。ウイルスDNAの初期発現遺伝子群領域について次世代シークエンス法で変異解析を行った(図参照)。
図1
その結果、シークエンスした全領域について高頻度変異が確認できたが、それは必ずしもランダムに起こっている訳ではなく、マイナス鎖のCがプラス鎖よりも、E1領域よりも複製開始起点周辺の方が変異頻度は高く、他の研究で報告されているようにTpCジヌクレオチドのCがより変異頻度に変異を受けている事がみうけられました。従って、これらの知見は、APOBEC3がヒト感染病態においてもHPVウイルスゲノムを標的にしている証拠であり、また変異蓄積の分子メカニズムの特徴の一旦を明らかにしたと言えます。
APOBEC3のウイルスゲノム変異活性は、一般に抗ウイルス活性と捉えられていますが、一方APOBECの変異活性が宿主ゲノムに向けられた場合は、発癌を促進する事も提起されているのがこの研究分野の最近のトレンドです。今後、HPV16誘発性発癌の様々な局面でのAPOBEC3の役割を明らかにしてく必要があり、本研究のような臨床検体を使った地道な作業がその第一歩と言えます。

 

APOBECタンパク質によるHPV16ウイルス粒子形成への干渉を明らかにした

Ahasan MM, Wakae K, Wang Z, Kitamura K, Liu G, Koura M, Imayasu M, Sakamoto N, Hanaoka K, Nakamura M, Kyo S, Kondo S, Fujiwara H, Yoshizaki T, Mori S, Kukimoto I, Muramatsu M.
APOBEC3A and 3C decrease human papillomavirus 16 pseudovirion infectivity
Biochem Biophys Res Commun. 2015 Feb 13;457(3):295-9.

*ヒトパピローマウイルス(HPV)は、特にHPV16型は、ヒトの子宮頸部上皮細胞や咽頭上皮細胞に感染しガンを誘発する事で知られており、感染細胞にエピゾームDNAを形成する。Wang君のJVI 2014の研究ではAPOBECsがHPVの核内エピゾームDNAに作用して少なくとも高頻度変異を導入する事を示した。しかし、ウイルスDNAの低下は認めなかった事から、HPV16エピゾームDNAの高頻度変異は、抗ウイルス活性につながっていないことを報告した。そこで今回は、APOBECsがウイルスの粒子形成や感染の過程に作用するかどうかを、HPV16の偽ウイルス粒子(Pseudovirion)感染実験系で調査した。
HPV16のキャップシド発現プラスミドとルシフェラーザレポータープラスミドを293T細胞にトランスフェクションし、偽ウイルス粒子を作成し、それを293Tに感染させ、偽ウイルス粒子の感染能を測定する実験系を用いた。感染能はルシフェラーゼ活性で定量した。この際それぞれのAPOBECを同時に強制発現させて作った偽ウイルス粒子と、GFPコントロールを発現させて作った偽ウイルス粒子と比較して感染能が下がるかどうかを検討した (図参照)。
図1
その結果、A3F, A3Gは、偽ウイルス粒子の感染能に影響しなかったが、A3AとA3Cは、ウイルスの感染能を低下させた。本研究よりA3AとA3Cは、HPV16のウイルス感染性を低下させる抗ウイルス活性を示す事が示唆された。しかし依然、A3AとA3C がどのようにウイルス感染性を低下させるか不明であるので、その分子機序をさぐるため更なる研究が必要である。

 


AIDのRNA編集活性を検出

Liang G, Kitamura K, Wang Z, Liu G, Chowdhury S, Koura M, Wakae K, Muramatsu M
RNA editing of hepatitis B virus transcripts by activation-induced cytidine deaminase
Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Feb.5;110(6):2246-2251

*AIDは核酸のシトシンに働きかけてウラシルに変換する酵素活性があるといわれている。実際、様々な実験からAIDはDNA上のシトシンをウラシルに変えることが示されている。 しかしAIDがRNA上のシトシンに働きかける酵素活性は実験的には実証されていなかった。これまで様々なアプローチでAIDのRNAに対する活性を実証しようとする試みが行われ、少なくとAIDはRNAに結合する活性は実験的に示されている。B型肝炎ウイルスはウイルスの中でも非常に小さいウイルス粒子を作るとされている。そのような狭い閉鎖空間にAIDとその基質が閉じ込められれば、RNAやDNAに対する活性を効率よくみれると考えられる。その証拠にAIDはB型肝炎ウイルスのヌクレオキャップシドに取り込まれるとウイルスDNAに働きDNA上にウラシルを作る事が既に報告されている。
そこで本研究では、AIDをB型肝炎ウイルスのヌクレオキャップシドに取り込ませて、その中でウイルスRNAに対する活性があるか検討した。 B型肝炎ウイルスでは、ゲノムRNAは細胞質でヌクレオキャップシドに取り込まれ、逆転写酵素により迅速にDNAに変換される。そこで逆転写酵素阻害剤や変異型ウイルスを駆使してヌクリオキャップシド内でRNAからDNAに変換される過程をブロックしヌクレオキャップシド内にウイルスRNAが蓄積する状況を作り出した。AIDがヌクレオキャップシドに取り込まれる状況でヌクレオキャップシド内のRNAやDNAを調べた。その結果、ウイルスRNAおよびDNAの両方にウラシルが作られている事がわかった。RNA上で起こるシトシンからウラシルへの変換(RNA editing)効率は、DNA上のより遥かに低く、AIDがB型肝炎ウイルスに起こすRNA編集がどの程度、抗ウイルス活性として機能しているか不明であるが、本研究が明らかにしたAIDのRNA editing活性は、AIDの酵素機能を考える上で重要な発見と考えられる。

 

B型肝炎ウイルスのゲノムにおけるAPOBEC3Gと遺伝子修復機構の拮抗関係

Kitamura K, Wang Z, Chowdhury S, Shimazu M, Koura M, Muramatsu M
Uracil-DNA Glycosylase (UNG) Counteracts the Hepadnavirus Hypermutation and Restriction Induced by APOBEC3G
Plos Pathogens 2013 May 16;9(5): e1003361. doi:10.1371/journal.ppat.1003361

*APOBEC3GがB型肝炎ウイルスやトリB型肝炎ウイルスの核内DNAゲノム(cccDNA)にhypermutationを導入し抗ウイルス活性を示す事を示した。さらにAPOBEC3GのcccDNA hypermutationの一部は塩基除去修復機構によって修復されている事を証明した。従ってAPOBEC3Gの抗ウイルス活性は、宿主が持つ遺伝子修復機構との兼ね合いによりきまっているようだ。もしかしたらウイルスは宿主の遺伝子修復機構を利用して自分自身を守っているのかもしれない。

Sajeda Chowdhury, Kouichi Kitamura, Miyuki Simadu, Miki Koura, Masamichi Muramatsu
Concerted action of activation-induced cytidine deaminase and uracil-DNA glycosylase reduces covalently closed circular DNA of duck hepatitis B virus
FEBS letter 2013 Sep.17;587(18):3148-3152

*AIDが塩基除去修復因子UNGとともに核内でトリB型肝炎ウイルスcccDNAを分解していることをトリ肝細胞で示した。AIDは細胞質と核とを行き来する蛋白質であるが、これを核のみに局在させるとcccDNA分解活性が増強された。このことから、AIDはAPOBEC3Gとは異なるメカニズムで抗ウイルス因子として働いている可能性が示唆された。

Zhe Wang, Kousho Wakae, Kouichi Kitamura, Satoru Aoyama, Guangyan Liu, Miki Koura, Ahasan Md Monjurul, Iwao Kukimoto, and Masamichi Muramatsu
APOBEC3 deaminases induce hypermutation in human papillomavirus type 16 DNA upon Interferon-β stimulation
J Virol.2014 Jan;88(2):1308-17

大学院生だったWang君は、HPV16ウイルスを持つ子宮頸癌由来培養細胞株W12を用いて、APOBECがHPV16に作用する可能性を追求した。 その結果、インターフェロン刺激に応答してAPOBEC3Gの発現が誘導され、ウイルスDNAに高頻度変異が起こる事がわかった。DNA上にある不正な塩基であるウラシルを除去する修復系を阻害するとAPOBEC3Gが起こす高頻度変異はさらに上昇する事から、APOBEC3Gが作るウイルスDNA上のウラシルは遺伝子修復系より修復を受けている事がわかった。ウイルス複製は高頻度変異が見られるにもかかわらず、さほど影響がなかった事から、HPV16にみられる高頻度変異は抗ウイルス作用として効果が薄い可能性が示唆された。本研究はAPOBEC3がインターフェロンの下流でHPV16に作用しうる事を初めて示した論文である。