研究の概要

I. APOBECファミリーの生体内での役割の探求

私達はこれまで遺伝子改編酵素AIDを発見し、AIDが抗体遺伝子の改編(クラススイッチ組換えとsomatic hypermutation)を起こすことを示してきました(図1)。2002年頃よりAIDに似た配列を持つAPOBEC3が報告され、現在ではAIDやAPOBEC3は11遺伝子産物からなるAPOBECファミリーを形成しています。このファミリーはすべてシチジンデアミナーゼモチーフという構造をもっておりDNAやRNA上のシトシン(C)をウラシル(U)に変換する活性があると推定されています(図2)。スライド1面白い事にマウスはAP0BEC3を1つしかもたないのに、ヒトも含めた霊長類はAPOBEC3を7つも持っています。当初これら7つのAPOBEC3はどういう役割があるのか、なぜ霊長類で7つも必要か一切わかりませんでした。しかし2003年頃、相次いでAPOBEC3がAIDSを起こす事で知られるHIV-1ウイルスの抗ウイルス活性があることが明らかとなりました(図3)。APOBEC3はウイルスの遺伝情報であるウイルスゲノム配列を書き換える事でウイルスが増殖できないようにしている事が示されました。当時、ウイルスの遺伝情報をハッキングして書き換えてしまうAPOBEC3の活性は免疫学者やウイルス学者を非常に驚かせたことはいうまでもありません。面白い事にHIV-1もAPOBEC3の抗ウイルス活性を無力化するタンパク質を備えてAPOBEC3に応戦している事も明らかにされています。これを契機にAPOBEC3が新たなタイプの抗ウイルス因子として脚光を浴びる事になりました。スライド2

一方、私達はAIDとそのファミリー分子APOBEC3が、B型肝炎ウイルスのウイルスゲノムに高頻度変異を導入し、ウイルスの複製を阻害する事を示しました。さらにAID/APOBECが起こした高頻度変異は我々の持つ遺伝子修復機構によりキャンセルされていることを明らかにしました(図3右)。現在ではAID/APOBECファミリーは、逆転写酵素を用いるウイルス(HIV,レトロウイルス、HBV)とレトロトランスポゾンに対する抗ウイルス因子として知られるようになりました。一方、AID/APOBECが逆転写酵素を使わないウイルス(例:HPV)に抗ウイルス活性を持つかはまだ調べられていませんでした。現在その可能性は子宮頸癌の原因ウイルスであるHPV16で検証しているところです。AID/APOBECの活性が、がん抑制遺伝子など本来変異が蓄積しては困る遺伝子座に向けられた時は、発癌のきっかけになると危惧されます。AID/APOBECの活性がどの遺伝子に作用するかを決めるかは非常に重要な課題ですが、まだよくわかっていないのが現状です。私達はAIDの活性が発癌につながることを示しきましたが(図1)、APOBEC3にもその可能性があることがいわれています。特にアメリカでは最新の技術である次世代シークエンスを使い、様々な癌細胞の全ゲノムが決定されており、その解析より、どうやらAPOBEC3も癌が進行する過程で、我々のDNAに変異を入れている事が示唆されています。そこで私達はAID/APOBECの活性と発癌がどうつながるのかを調べています。我々は、AID/APOBECとウイルスの相互作用(駆け引き?)に興味を持ち、日々、ウイルスあるいは割れられ自身の適応の不思議を研究しています。

(最先端・次世代研究開発支援プログラム – 金沢大学の研究紹介ページもご覧ください。)

II. インフルエンザウイルスを研究対象とした次のプロジェクトを設定しています。

  • インドネシアに研究基盤をおき,ボゴール大学,アイルランガ大学熱帯病センター等との共同研究により,高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスに対する遺伝子組み換え(RG)ワクチンの開発と臨床試験。
  • インフルエンザウイルス感染細胞の免疫応答と病原性の分子機構。